疾患の治療法の開発に有用なトランスジェニックマウス

ヒトの遺伝子を動物で発現

さまざまな動物のゲノムを改変する技術の開発が進んでいます。例えばマウスで特定の遺伝子を過剰に発現させたり、遺伝子を破壊してその機能を解析することは、ヒトの疾患を理解する上で欠かせません。ヒトの疾患で変異している遺伝子を導入した疾患モデルマウスも開発されています。

また、ヒトの遺伝子を大型の家畜動物で発現させ、遺伝子組換えタンパク質を大量に低コストで得ることも実用化されています。さまざまな実験動物や家畜などでも遺伝子改変が行われ、その動物個々の特性を生かした解析がなされています。

マウスは、遺伝学が発達しており、また飼育が容易なこと、あるいは生殖周期が短いことなどから、遺伝子改変の効果を調べる研究によく用いられます。固体の中で外来性の遺伝子を過剰に発現するものをトランスジェニックマウスと呼びます。

作成方法としては、マウス卵子が受精した直後には、まだ精子由来の核と卵子由来の核は融合しておらず、それぞれ前核と呼ばれます。精子由来の雄性前核にマイクロピペットで遺伝子発現用のプラスミドDNAを注入することができます。

DNAを注入した受精卵を、ホルモン処理により偽妊娠状態にさせた雌マウスの卵管に移植すると、高確率で導入した遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作製することができます。また、導入したい遺伝子を組み込んだプラスミドDNA溶液に浸した精子を用いて受精させることによっても作製できます。ウイルスベクターを用いて8細胞期の胚細胞に遺伝子導入する方法や、遺伝子導入したES細胞を経由して作出することも可能です。

病気の原因解明や治療法の開発に有用

ヒトの遺伝病には、常染色体上の一方の遺伝子の変異によって発症する優性遺伝病と、2つのアレルがともに損なわれたときに発症する劣性遺伝病があります。また、伴性遺伝病では、X染色体上の遺伝子変異によって不活性化されています。

若年性発症のアルツハイマー病は、アミロイド前駆体タンパク質のプロセシングに関与する部位の変異やプロセシング酵素を構成するプレセニリンの変異によって生じる優性の遺伝病です。こうした変異は1アミノ酸の変異によるものです。

優性の遺伝病を研究するためには、変異した遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作製すればよいのですが、トランスジェニックマウスでは、外来性のプロモーターを用いるため、遺伝子発現量や組織特異性が、疾患の状態と異なっています。

疾患の状態を忠実に再現するためには、遺伝子発現の組織特異性を本来の遺伝子と同じにする必要があります。正常な遺伝子を変異遺伝子に置換するノックインマウスが作製されています。