がん関連遺伝子:増殖と抑制のバランスが崩れると×

増殖のスピードをコントロール

がんの大半は遺伝子を原因とする病気ですが、1つの遺伝子の変異だけでは発症しません。複数の遺伝子に偶然起こった変異の蓄積が、最終的にがんへとつながるのです。

また、変異を起こした遺伝子とがんの種類が1対1に対応するわけではなく、がんの原因になった遺伝子が異なっていても、がんとして同じ症状ならば、同じがんに分類されます。

変異を起こすとがんになる遺伝子は、がん関連遺伝子を呼ばれ、200近く知られています。これらの遺伝子のいくつもの変異が、ある一つの細胞に集積し、その細胞が無制限に増殖するようになると、がんになるのです。

がん関連遺伝子は大きく分けると「がん遺伝子」と「がん抑制遺伝子」があり、それぞれ100以上見つかっています。がん遺伝子は、変異した遺伝子から作られる遺伝子産物の機能が過剰、つまり、働きすぎの状態になると、細胞をがんに向かわせます。

変異が起きてしまったものはがん遺伝子、変異が起こる前の正常に働くものは原がん遺伝子といいます。がん遺伝子は、機能が過剰になった状態なので、対の遺伝子のうち片方だけに異常が起こってもがん化する優性の変異です。

一方、がん抑制遺伝子は劣性の変異で、遺伝子が機能を失った場合にがんになります。片方だけ機能を失っても、もう一方が正常に機能すれば問題ありませんが、両方が機能を失うとがんに向かいます。

原がん遺伝子もがん抑制遺伝子も、正常な細胞で重要な働きを担っています。ほとんどのがん関連遺伝子は、正常な場合は、細胞間で情報をやり取りして、細胞の分裂、分化や死を調節する働きがあります。

私たちの体の細胞のうち、神経細胞はほとんど分裂を停止した状態にありますが、骨髄や胃腸にある細胞などは常に分裂していて、白血球や赤血球、あるいは新しい粘膜細胞をつくったりしています。

原がん遺伝子は、細胞が協調性を保って増殖するように、がん抑制遺伝子は細胞の増殖が暴走しないように、と互いが働くことで、増殖のスピードがコントロールされているのです。このバランスが崩れると細胞はやがて暴走を始め、がんへと向かいます。

遺伝性のがんは極めて稀な存在です。その場合、変異個体は、生まれつきの細胞で片方の遺伝子に変異を持っている(ヘテロ接合体)ので、毛片方に変異が生じるとがんになってしまいます。網膜芽細胞腫、家族性大腸腺種、遺伝性内分泌腺腫瘍などが該当します。