ペプチドワクチン免疫療法が広く行われています
腫瘍細胞に特異的に発現しているタンパク質を抗原として利用し、免疫力を高めるの治療法も幅広く行われています。
外科的に摘出したがん細胞を補斜線照射などで死滅させた後に注射する方法や、がん特異的に高発現しているタンパク質やその一部を人工的に作成したものをワクチンとして注射する方法などによって、患者の持つ免疫力を高めようという治療法です。
丸山ワクチンなどのワクチン療法は、マクロファージやNK(ナチュラルキラー)細胞という特異性のない免疫細胞を活性化させて、がんの再発や増悪を防止しようとする治療法です。
それに対して、最近は、上記のような細胞・タンパク質に加え、がん細胞特異的なタンパク質を解析し、がん細胞を選択的に傷害するT細胞(キラーT細胞)を活性化するために、9~10アミノ酸からなるペプチドを合成して免疫細胞を増やそうとするペプチドワクチン免疫療法が広く行われてるようになってきています。
標的とするがん細胞特異的なタンパク質から、がんワクチンとして利用可能なペプチドをスクリーニングする方法は以下の通りです。
- 血液からリンパ球を選別する。
- ペプチドを細胞表面に抗原として提示する樹状細胞を分離する。
- 培養液に高濃度でペプチドを加えて樹状細胞のHLA-A分子の表面にペプチドが抗原分子として結合し、抗原として提示される。
- 抗原が提示された樹状細胞とリンパ球を混合して培養する。
- 樹状細胞によって刺激されたリンパ球が増殖する。
- 増殖したリンパ球(エフェクター細胞)とペプチド抗原を表面に提示している樹状細胞(ターゲット細胞)を混合して、リンパ球の殺細胞効果を調べる。
がんのワクチン療法は1990年に腫瘍特異的抗原が報告され、腫瘍細胞特異的に患者自身の免疫を活性化する治療法として注目を浴びました。その後、メラノーマに対する臨床試験で有効性が示され、期待が高まりましたが、2003年にアメリカで腫瘍縮小効果が3%以下であるとのデータが公表されたため、失望に変わりました。
しかし、免疫学的解析では患者における免疫系の活性化が認められたことを受け、もっとがんのステージの早い段階でのワクチン療法の検討が始まり、2006年には肺がんや乳がんの手術後の再発予防効果が期待されるような成果が報告されました。グラクソ・スミスクライン社は2007年よりMAGE3という抗原タンパク質を利用した肺がん再発予防効果を検証する治験を世界規模で開始しています。